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ハッカの知識 Knowledge of Mint

ハッカ成分

ハッカ油成分は、他の植物にも含むものも合わせ、約100種以上の成分で構成されています。ハッカ脳「l-メントール」を代表とする15種類前後の特徴成分が「香り・風味」の違いを表す重要成分となります。

d,lと(+),(-)について

ハーブオイルの成分の名称の前に見慣れない記号やアルファベットがある場合があります。これは、同じ名前の成分の分子の結合の向きが異なる場合(エナンチオマーといいます)に使用されるもので、例えばメントールと名の付く化合物は(+)-メントールと(-)-メントールの2つがあります。厳密にいうと、(-)-メントールと同じパーツで作られる結合の向きが違う化合物(立体異性体といいます)は全部で8種類あります。(+)、(-)は「その化合物の溶液を通った光が左右どちらに回転するか」で決定されています。生化学や天然化学、薬学では、構造の違いにより生理活性が異なる場合があり、区別が重要になるためこの表記が利用されます。

天然ハッカ

精油とハッカ脳の双方が存在します。精油の場合、同品種の取卸油であってもその年の気候によって微量成分(ハッカ脳以外の0.5%前後の成分)に微妙な差が生じます。また、1%以下の成分バランスも香りに影響しますので、厳密に言うと成分のバランスによりミントも全く違う香りが多数存在しますが、「ハッカ脳」は精油と違い、ほぼ100%の「l-メントール」という成分なので、種類による臭いの違いはあまり感じないかも知れません。

最良成分

モノテルペンアルコール類(化学的には(C10)の化合物の場合に「モノテルペン」と言います)に属する約99.5%以上のl-メントール(メントール)という化合物は「menthol・neo-menthol・isomenthol・neo-isomenthol」4個の「立体異性体」からできており、それぞれに(l-、d-、dl-)体があるので、化学的には12個ある異性体を総称した物質です。(総メントール)これがハッカ油の「スーッ」とする清涼感のもとで、和種・洋種ハッカ油の主成分となります。高温に弱く、42~44℃以上で昇華する性質です。

  • l(-)-menthol(メントール) 化学式= C10H20O 分子量=156.27

    Japanesemint:65~85%、Peppermint:50~65%

  • l(-)-Carvone( カルボン ) 化学式= C10H14O 分子量=150.22

    Spearmint:55~70% モノテルペノイド。スペアミントやキャラウェイに含む物質

主要成分
  • l-menthone(メントン)

    18~31% ケトン類。成分中メントールの次に多く、メントールに似た匂いで清涼感は少ない成分。

  • l-limonene(リモネン)

    1~5% モノテルペン炭化水素

  • l-pinene(αピネン、βピネン)

    0.5~2% ケトン類。難揮発性のテルペン炭素化合物で、3種類は精油成分の劣化現象を左右する重要な成分。スペアミントの場合カルボンの次に多い成分。

  • 3-octanol(3‐オクタノール)

    1% アルコール類。油臭み成分です。

  • l-isomenthone(l-イソメントン)

    1~11% ケトン類

  • l-neomenthol(l-ネオメントール)

    4~ 6% モノテルペンアルコール類

  • piperitone(ピペリトン)

    1% ケトン類。苦味・青臭みと、葉の老化と共に増加する「含酸素成分」で、品質にとってあまり好ましくない成分。

  • d-pulegone(d-プレゴン)

    1~11% ケトン類。ペニーロイヤル・コルシカミントなどの主成分で、ハッカの香りに加え苦味のある風味を持つ成分。

その他主要成分
  • menthofuran(メントフラン)

    1~7% フラン類。ペパーミントに含む成分。

  • l-menthyl acetate(メンチルアセテート)

    3~9%

  • piperitone(ピペリトン)

    1~2%

  • 1.8-cineol(シネオール)

    1~2%

合成ハッカ

化学反応によってつくられたハッカ脳のことを「合成ハッカ」とよんでいます。現在、ハッカ製品の原料として利用されているのは、90%が合成ハッカと言われています。天然ハッカのメントール析出は、作業効率・コスト面・投機的要素を多分に含んだ作物であること等から、自由化による価格競争に耐えうるかが課題となっていました。また、このような背景をかかえる中、価格の不安定さが常に付きまとう作物でした。これらの課題を克服した合成ハッカは、利用者にとってこの上ないメリットをもたらしました。西ドイツで始まったこの技術は、世界中に影響し工場建設相次ぐ中、日本にも静岡に工場が建設されるなど、その需要もどんどん広がり、天然ハッカに続き合成ハッカの分野でも日本は世界の半数を占めるまでの生産国となりました。

合成で造られるのは「ハッカ脳」で「合成精油」と言うものはありません。食品添加物法では合成によって造られた「ハッカ脳」も精油から析出された「天然のハッカ脳」も差異は設けずどちらも指定香料と位置づけられていますが、天然のハッカ脳には過去の合成法で得られた合成ハッカには含まれない天然特有の成分もありました。

3-octanol(オクタノール), isomenthone(イソメントン), menthylacetate(メンチルアセテート)

合成ハッカの原料

合成ハッカは精油ではなく「ハッカ脳(結晶)」同様の物質を生成します。過去には生成時、わずかに残留していた天然のハッカ脳には含まれない成分もありましたが、現在では20世紀中不可能と言われた合成方法の発見によって、必要な化合物だけの合成が可能になりました。この分野は、今なお進化を続けておりますが、過去からどんなものを原料に合成してきたのかをご紹介します。

  • シトロネラ草

    主成分のシトロネラール→イソプレゴール→合成メントール

  • 木材

    ピネンから。

  • ハッカ油

    ハッカ油副成分のメントン→合成メントール。

  • ユーカリ油

    ピペリトン→合成メントール

  • 石油

    m-クレゾール・ハロゲン化イソプロピル→チモールを合成→合成メントール

  • BINAP(バイナップ)

  • 不斉合成法による合成メントールの生成。
    光学活性(光の偏光面を右、または左に回転させる性質)の化合物を人工的に合成する方法。

    不斉合成とは上記の様に、その化学処理の一つでキラルな物質(光学活性な物質)を作り分けること。自然界に存在する「有機化合物の多くは光学活性体」で、生物を構成する「アミノ酸」や「糖質化合物」も光学活性体。光学活性な物質とは、分子構造が非対称なために鏡写しの構造をとった分子(鏡像体、エナンチオマー)が元の分子とは異なる物質のこと。生体に作用する医薬品などもその鏡像異性体(実像と鏡像の関係にある異性体)間で生理作用が異なる場合があり、一方の鏡像異性体のみを合成することが強く望まれる。化学反応性や物性がほぼ等しいため分離が困難であるが、生体内では酵素が光学活性体を合成する際に重要な役割を果たすが、フラスコの中で人工的に一方の光学活性体を合成することを不斉合成という。2001年のノーベル化学賞を受賞した野依良治(現・理化学研究所理事長)の業績は、不斉触媒を用いた水素化反応に関するもので、超微量の光学活性化合物を用いるだけで、大量の光学活性体を合成することができる。(市村禎二郎 東京工業大学教授)
    この鏡写しの分子中、有用な物質を選択的に合成することが医薬品、農薬の開発に大きな貢献をし、特に、教授の指導のもと最初に製品化されたのが、高砂香料工業によるメントールの合成であったのです。